人工関節・人工骨頭置換術の後遺障害と慰謝料をくわしく解説

人工関節置換術(ちかんじゅつ)や人工骨頭(こっとう)置換術という治療法をご存知でしょうか? 
交通事故による骨折が治っても痛みなどが消えない場合には、関節を金属やセラミック、ポリエチレン等で作られた人工関節・人工骨頭に置き替える手術を行う場合があります。

この手術により、関節の痛みの原因を取り除くことができます。ただ、手術によって人工物を身体に入れることは、被害者の方にとって肉体的にも精神的にも大きな負担となります。
しかし、こうした被害者の負担に対して、相手側の保険会社は正当な賠償金を支払っていないことが多いのが現実です。

人工関節を入れるとどんなことが起こるのか? なぜ正当な賠償金が支払われないことが多いのか? 実際どうしたら良いのか? そうした点についてこの記事では詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。

この記事を読んでいただくと…

・「人工関節置換術」がどんな治療なのかわかります
・保険会社から支払われる慰謝料などの相場がわかります
・正当な賠償金を受け取る方法がわかります

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人工関節・人工骨頭置換術とは

人工関節、人工骨頭はどちらも人工的につくられた関節のパーツです。手術により損傷した関節と置き換えることにより痛みを取り除き、スムーズに動かせるなります。
損傷した関節の部位によって「人工関節」「人工骨頭」など、使われるパーツが違ってきます。

「骨頭」というのは、大腿骨などの根本にあるボール状の突起のこと。股関節では、これが骨盤のくぼみにすっぽりはまり込む構造になっています。この骨頭の部分を人工のパーツに置き換える場合は「人工骨頭」が使われます。

骨頭

一方、膝などの関節を置換する場合は「人工関節」が使われます。
ただ、一般的には「人工関節」「人工骨頭」を含めて人工的につくられた関節を幅広く人工関節と呼んでいます。

人工関節置換術とは

「人工関節」は肘(ひじ)や膝(ひざ)など、さまざまな関節に対応するものが作られています。そのなかでも一番よく使われている箇所は膝で、人工関節置換手術の約60%を占めています。

膝は全身の体重を支える重要な関節です。痛みがあると、日常生活にも大きな支障が出やすいため、人工関節手術を行うことが多くなっています。

人工関節(膝)
人工関節(膝)

人工関節に置き換える理由としては、痛みの軽減がいちばんに挙げられます。たとえば、膝関節の骨と骨が合わさっている関節面が損傷したり、関節面に付随する軟骨を損傷してしまった場合などは、通常の治療を施しても動かすたびに激しい痛みが出ることがあります。しばらく安静にしても痛みが消えない場合は、人工関節置換術を行うことで症状を改善できる可能性があります。

人工関節の素材としては、チタンやステンレス、コバルトクロム合金などの金属と、セラミックスやポリエチレンを組み合わせたものが一般的です。

関節面の摩耗や金属の劣化のため、以前の人工関節は長くても10年ほどの耐用年数でした。しかし素材技術の進歩により、今では20年以上の使用にも耐える製品も使われるようになっています。

人工骨頭置換術とは

「人工骨頭」への置き換えが行われることが多いのは股関節(こかんせつ)です。やはり体重を支える部位なので、ここに痛みが生じると日常生活に大きな影響が出ます。

人工骨頭
人工骨頭

骨盤と大腿骨を繋いでいる股関節の骨頭は、軟骨などで覆われて骨盤の中にはまり込んでいます。そのため、大腿骨の脱臼や骨折をすると血流障害を起こしやすいのです。血流障害が起こると、骨は壊死してしまいます。壊死した骨頭に体重がかかると潰れて変形し、激しい痛みが出るようになります。そのため人工骨頭が必要になるのです。

人工骨頭の素材も人工関節と同様に金属やセラミックス、ポリエチレンなどが使われています。最近では、素材技術の進歩により20年以上の使用が可能な製品も使われています。

人工関節・人工骨頭置換術のリスクとデメリット

人工関節・人工骨頭置換術には、痛みを大幅に軽減できるという大きなメリットがあります。一方でリスクやデメリットとしては、どんなことが考えられるでしょうか?

①大掛かりな手術が必要

人工関節・人工骨頭置換術は、もとの関節の骨を切り取り、人工のパーツに置き換える手術ですので、全身麻酔が必要な、かなり大掛かりな手術になります。

術式にもよりますが、数週間から数ヶ月以上の入院と、それ続くリハビリが必要となります。手術を受ける方にとっては、身体的にも精神的にも大きな負担が強いられます。

なお、人工関節・人工骨頭置換術の手術費用は合計で数百万円と言われています。この費用について、交通事故の被害者の方の場合は、全額を相手側の保険会社に請求できます。

②日常生活での制限

人工関節・人工骨頭置換術により、通常の歩行や自動車の運転などは問題なく行えるようになる方が多いと思います。しかし、日常生活にまったく制限が生じないわけではありません。

埋め込まれた人工関節・人工骨頭には製品ごとに可動域が定められており、それを超えて関節を曲げることはできないので、たとえば正座をすることができないなどの制限が生じます。また、激しい運動や長時間の運動も推奨されていません。

また、人工関節・人工骨頭には金属が使われているため、気をつけなければならないこともあります。たとえば、空港で金属探知機をくぐる時や、病院でMRI撮影を受けるときは、人工関節が入っていることを申し出る必要があります。

③耐用年数と再手術

置換術に使われる人工関節・人工骨頭は、技術的な進歩により以前よりも耐用年数は長くなりました。個人差はありますが、20年以上の使用が可能な場合もあるようです。

しかし、永久に使えるというわけではありません。10〜20年後には、新しい人工関節・人工骨頭と入れ替えるための再手術が必要になります。また、生体との適合がうまくいかなかったために、最初の手術から数年で再手術が必要になる可能性も無いわけではありません。

交通事故の加害者側と示談する場合には、こうした再手術の可能性も考慮しておく必要があります。

人工関節・人工骨頭置換術の慰謝料・保険金

交通事故の被害者となり、人工関節・人工骨頭置換術を受けるほどの大けがをした場合、どれほどの慰謝料などの保険金(示談金・賠償金)を請求することができるのでしょうか?
計算方法や実際の相場について、弁護士の立場から解説します。

交通事故の被害者はどんなお金が受け取れる?

人工関節・人工骨頭置換術を受けた交通事故の被害者が受け取れる可能性のある保険金(示談金・賠償金)は以下のとおりです。

治療費等 手術費用、入院費用、通院費用などは、通常は保険会社から病院に直接支払われます。通院交通費や松葉杖などの費用も請求することができます。
→交通事故の治療費について
休業損害 ケガために仕事ができず減ってしまった収入が補償されます。
→休業損害とは
障害(入通院)慰謝料 ケガの治療で入通院することの精神的負担に対する慰謝料です。
→入通院慰謝料とは
後遺障害慰謝料 後遺症を負った精神的苦痛に対する慰謝料です。
→後遺障害慰謝料とは
逸失利益 後遺症のために今後失ってしまうであろう収入が補償されます。
→逸失利益とは
将来治療費 将来必要となるであろう再手術やリハビリの費用を請求することができます。

それぞれの項目について、計算方法や注意すべき点があります。くわしく知りたい場合は、表内のリンク先ページをご覧ください。

保険会社の基準と弁護士基準とは?

交通事故の慰謝料・保険金には3つの基準があると言われています。「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」です。

3つの基準の比較

「自賠責保険」は最低限の補償をするための強制保険なので、3つの中では一番低い金額になっています。
「任意保険」と呼ばれるいわゆる自動車保険会社の基準は、それよりも手厚い補償となるはずですが、実際は「自賠責保険」の金額とあまり変わらないことが多いようです。

これに対して「弁護士基準」は、過去の交通事故裁判の結果を集めて基準化したものです。つまり、被害者の方はこれくらいの慰謝料・保険金を受け取るべきと裁判所が公に認めた金額です。保険会社の2〜3倍の金額になることも珍しくありません。
なお、裁判をしなくても、保険会社との示談手続きを弁護士に依頼すれば、自動的に弁護士基準が適用されます。弁護士費用を払ったとしても、それ以上に多くのメリットがあると言えます。

人工関節・人工骨頭置換術の「後遺障害慰謝料」の相場は?

人工関節・人工骨頭置換術を受けた被害者の方の多くがが認定される後遺障害等級は10級または8級です。それぞれの後遺障害慰謝料の相場は下の表のとおりとなります。自動車保険会社の金額に近いと思われる自賠責保険の基準と、弁護士基準との金額の差に驚かれるのではないでしょうか。

後遺障害慰謝料の相場
  自賠責保険の基準 弁護士基準
後遺障害8級 331万円 約830万円
後遺障害10級 190万円 約550万円

人工関節・人工骨頭置換術の「入通院慰謝料」の相場は?

入通院慰謝料とは、交通事故で入院や通院することの精神的負担に対して支払われるものです。入通院慰謝料の金額は、入院や通院をした期間によって変わってきます。

たとえば半年(180日)入通院した場合の慰謝料を見てみましょう。

入通院慰謝料の計算例
  自賠責保険の基準 弁護士基準
入院2ヶ月+通院4ヶ月の場合 77万4千円
※ただし治療費、休業損害との合計で最大120万まで
165万円

自賠責保険の基準の場合、入通院慰謝料は1日あたり4,300円(2020年3月31日以前の事故では4,200円)です。ただし治療費や休業補償と合わせて最大120万円までという上限があります。180日分の治療費はかなりの高額になりますので、入通院慰謝料についてはほとんど支払われないケースも多くなります。保険会社に任せた場合も、だいたいこれに近い金額が提示されると考えてください。

一方、弁護士が入った場合は入通院慰謝料も弁護士基準で計算されます。入院日数と通院日数により目安となる金額が決められており、2ヶ月(60日)入院の後、4ヶ月(120日)通院した場合の入通院慰謝料は165万円です。もちろん治療費や休業補償とは別に支払われます。

入通院慰謝料の詳しい計算方法が知りたい方は、下の記事をご覧ください。

人工関節・人工骨頭置換術で逸失利益は認められる?

「逸失利益」というのは、交通事故の後遺症により減ってしまう将来の収入を補償するもので、場合によっては慰謝料よりも高額になります。

例えば人工関節・人工骨頭置換術で認定される後遺障害10級の場合は、労働能力喪失率27%を目安に逸失利益を計算するのが基本となります。
ところが保険会社はなかなかこのとおりの逸失利益を認めてくれません。

「人工関節・人工骨頭に置換することで関節は痛みもなくなり、スムーズに動くようになるので仕事への影響は少ない」というのがその理由です。

しかし、人工関節に関する技術の進歩が著しいとはいえ、完全に元通りになるわけではありません。強い荷重がかかるような運動や、長時間の歩行などはできない、可動域が制限されるために正座やしゃがむ姿勢ができない、ということで将来の労働にも影響が生じる可能性があります。

また、置換した人工関節・人工骨頭は、そのまま一生涯使えるというわけではありません。摩耗やゆるみにより痛みが再発する可能性は否定できません。そして部品の耐用年数による交換やメンテナンスのための再手術も必要になります。
これらは当然、将来の労働に対して影響が生じます。

保険会社に逸失利益を認めさせるには、こうした事実を証明する資料を準備して論理的に交渉する必要があります。人工関節による後遺障害にくわしい弁護士であれば、こうした交渉をすべて任せることができますので、ぜひ相談してみてください。

人工関節・人工骨頭置換術で将来治療費は認められる?

「将来治療費」は文字通り将来必要になる治療の費用を相手側に請求するものです。しかし、症状固定日より後にかかった治療費は損害賠償では認められないのが一般的です。人工関節・人工骨頭置換術を行った場合も、相手側の保険会社は基本的に将来治療費を認めてくれないことが多いと思います。

「症状固定」とは「これ以上治療を続けても良くならず、治療を終了しても症状に影響がないと医師が判断する」ことです。人工関節・人工骨頭置換術を行った場合は、手術後数ヶ月で症状固定となる場合が多いようです。

ただし、人工関節・人工骨頭置換術の場合は10〜20年後にはパーツの交換のための再手術が必要になります。高齢者の場合は別として、少なくとも平均余命までの再手術費用は請求しておかなければなりません。

そのためには、担当医師にしっかりとした意見書を書いてもらったうえで、弁護士を通じて保険会社と交渉するのが効果的です。過去の裁判例などを根拠として交渉すれば、保険会社も将来治療費の支払いに応じる場合があります。

人工関節・人工骨頭置換術を行った場合の後遺障害等級

人工関節・人工骨頭置換術を受けると「関節の機能に著しい障害がある」と見なされて、後遺障害10級に認定されます。さらにその関節の可動域が健康な関節の半分以下になると「関節の機能が失われた」と見なされ、後遺障害8級となります。

しかし医療技術と素材の進歩によって、人工関節を入れても健康な関節の半分しか動かないといったケースは、あまりないといわれています。ただ、実際に動かないことを認められて8級を取得したケースもありますので、まずは弁護士に相談してみることが大事です。

参考までに、人工関節・人工骨頭置換術の後遺障害等級表を掲載しておきます。

上肢(肩、ひじ、手首) 

8級6号 片腕の肩・ひじ・手首のうち、どれか1関節の機能が失われた
10級10号 片腕の肩・ひじ・手首のうち、どれか1関節の機能に著しい障害がある

下肢(股関節・ひざ・足首)

8級7号 片足の股関節・ひざ・足首のうち、どれか1関節の機能が失われた
10級11号 片足の股関節・ひざ・足首のうち、どれか1関節が機能に著しい障害がある

後遺障害等級の取得方法

後遺障害等級を取得するためには、担当医師に発行してもらう後遺障害診断書などの書類を揃えて申請する必要があります。

申請は相手側の保険会社に依頼することもできますが、弁護士を通じて「被害者請求」として申請するほうが、さまざまな面で被害者の方に有利になります。

事前認定
保険会社による事前認定
被害者請求
弁護士による被害者請求

「被害者請求」を弁護士に依頼した場合は、手続きや交渉をすべて弁護士や法律事務所のスタッフに任せられるので、被害者の方の負担が少なく、精神的にも安心できます。
そしてその後の慰謝料等の算出についても、最も高額な弁護士基準となり、逸失利益や将来治療費についてもしっかり交渉することが可能なので、最終的に被害者の方が受け取る金額は倍以上の差が出ることも珍しくありません。

人工関節・人工骨頭置換術と身体障害者手帳・障害年金

人工関節・人工骨頭置換術を受けた場合の身体障害者手帳や障害年金について、よく質問をいただきます。これらは公的な支援ですので、交通事故の損害賠償とは別の話になりますが、基本的な情報として掲載しておきます。

身体障害者手帳について

身体障害者手帳は、提示することで障害者雇用枠での就労が可能になるほか、医療費の負担減や税金の割引・控除等のサービスが受けることができるようになります。

2014年までは人工関節・人工骨頭置換術を受けた方は一律で4級の身体障害者と認定され、手帳が発行されていました。ただし現在では認定基準が変わり、置換手術後の関節可動域に大きな制限がある場合のみ認定される可能性があります。
人工関節に関する技術の大幅な進歩により、事実上認定されるのは難しくなったと考えたほうが良いでしょう。

厚生労働省ホームページ(身体障害者手帳)

障害者年金について

障害年金とは公的年金のひとつで、病気やケガによって生活に支障が出てしまうような場合に支給されます。混同されることが多いのですが、身体障害者手帳とは別の制度で、認定基準も異なります。

人工骨頭、人工関節へ置換した場合は、障害年金3級以上に該当します。ただし実際に障害者年金を受け取るには、加入している年金の種類や加入期間により制限があります。詳しくは日本年金機構のホームページをご覧ください。

人工関節・人工骨頭置換術の解決事例

アズール法律事務所にご依頼いただいた人工関節・人工骨頭置換術の事例を紹介します。弁護士による示談交渉で、実際にどれくらいの慰謝料・保険金が獲得できたのか、参考になると思います。

事例①バイク事故で右大腿骨頚部骨折

Aさん(50歳男性)はバイクで走行中に右折車に衝突されて、ガードレールに全身を打ち付けられて右大腿骨頚部を骨折、人工関節(人工骨頭)置換術を受けました。
アズール法律事務所にご依頼いただいた結果、約2000万円の賠償金を獲得できました。

後遺障害等級:10級11号
獲得示談金合計 2092万5千円
 治療費・交通費等 142万5千円
 休業損害 300万円
 障害(入通院)慰謝料 200万円
 後遺障害慰謝料 550万円
 逸失利益 900万円

この事例の詳細についてはこちらのページをご覧ください。

事例②自転車事故で左大腿骨頚部骨折

Yさん(67歳、女性)は自転車で横断歩道を走行中、脇見運転の乗用車にはね飛ばされ、下半身を強打。左の大腿骨頚部を骨折し、人工骨頭置換術を受けました。
アズール法律事務所にご依頼いただいた結果、約1900万円の賠償金を獲得できました。

後遺障害等級:10級11号
獲得示談金合計 1907万9500円
 治療費・交通費等 145万9500円
 休業損害 220万円
 障害(入通院)慰謝料 240万円
 後遺障害慰謝料 550万円
 逸失利益 750万円

この事例の詳細についてはこちらのページをご覧ください。

まとめ

交通事故による骨折で人工関節・人工骨頭置換術を受けた場合は、後遺障害に認定される可能性が高いと言えます。ただし、手続きのしかたによって治療費や慰謝料を含めた示談金の金額は大きく変わってきます。
後遺障害等級を獲得するだけでなく、正当な慰謝料、逸失利益、休業損害等を受け取るためには弁護士を通じて相手側の保険会社等と交渉するのが、きわめて有効です。

不幸にも交通事故に遭ってしまったことはやり直せません。でも、これ以上の後悔をしないためにも、人工関節・人工骨頭置換術を行った場合は、ぜひ交通事故に詳しい弁護士に相談するようにしてください