
人工関節や人工骨頭という治療法をご存知でしょうか?交通事故によって人工関節や人工骨頭を入れるとどうなるのか、後遺障害の慰謝料はどのくらいなのか、詳しく見てみましょう。
人工関節、人工骨頭とは?
人工関節・人工骨頭とは、金属やセラミック、ポリエチレンで作られた人工の骨です。交通事故でひどく関節や骨頭が傷つき、通常の治療では回復が難しい場合に使われています。
人工骨頭の「骨頭」とは、骨の先端にあるボール状の部分です。肩関節や股関節は「骨頭」であるボール状の部分が肩や腰の骨盤のくぼみにすっぽりとはまり込むような構造になっています。交通事故の治療では、関節全体を人工物にするのではなく、股関節の「骨頭」のみを人工骨頭に入れ換える手術が良く行われます。
他方、人工関節は、肩・ひじ・股関節・ひざなど、さまざな箇所に対応するものが作られています。そのなかでも一番よく使われている箇所はひざで、人工関節手術の約60%を占めています。次いで多いのが股関節です。
人工関節手術では、関節の痛んだ部分を取り除き、人工関節を埋め込みます。部位にもよりますが手術は約2~3時間、手術から退院までは約1~3ヶ月程度かかります。
人工関節・人工骨頭に置き換える理由とは?
人工関節

人工関節に置き換える理由としては、痛みの軽減が挙げられます。膝関節の骨と骨が合わさっている関節面が損傷したり、関節面に付随する軟骨を損傷してしまった場合などは、通常の治療を施しても動かすたびに激しい痛みが出ることがあります。しばらく安静にしても痛みが消えない場合は、人工関節手術となる可能性があります。
特にひざ関節は、全身の体重を支える重要な部分です。痛みがあると、日常生活にも大きな支障が出やすいため、人工関節手術を行うことが多くなっています。
人工骨頭

一方で、人工骨頭への置き換えが行われることが多いのは股関節です。人工骨頭に置き換える理由としては、人工関節と同じく、スムーズに関節を動かせなくなったことなどが挙げられますがあります。
さらに、元の骨頭が壊死することが多いということも理由として挙げられます。
足の付け根にある大腿骨の骨頭は、軟骨などで覆われて骨盤の中にはまり込んでいます。そのため、骨折をすると血流障害を起こしやすい部位でもあります。
血流障害が起こると、骨頭は壊死してしまいます。壊死した部分に体重がかかると、骨頭は潰れて変形し、激しい痛みが出るようになります。そのため人工骨頭が必要になるのです。
人工関節・人工骨頭に置き換えるメリットやデメリットは?
人工関節・人工骨頭に置き換える最大のメリットは、痛みが軽減でき、歩行が可能になることでしょう。人工関節・人工骨頭が登場する以前は、痛みで歩行できなかったり、そもそも体を支えられず、歩けなくなってしまっていました。
一方、人工関節・人工骨頭に置き換えることのデメリットとしては、メンテナンスが欠かせないことでしょう。
器具としての人工関節ですが、永久に使えるわけではありません。現在の医学技術では、人工関節の耐久性は15~20年以上といわれていますが、長年の使用では入れ替えのための再手術が必要になることもあります。
また、高齢の方などは、人工関節を入れるまでの治療中に関節周囲の筋肉が固まってしまうことも珍しくありません。すると人工関節や人工骨頭を入れても、十分に動かせなくなってしまいます。
さらに細かい話ですが、人工関節には金属が使われているため、その周囲のMRI画像がうまく映らなくなるというデメリットもあります。また、空港などの保安検査では金属探知機により警報が鳴る場合があります。
人工関節・人工骨頭を入れた場合の後遺障害等級は?
人工関節・人工骨頭の手術を受けると「関節の機能に著しい障害がある」と見なされて、後遺障害10級に認定されます。さらにその関節の可動域が半分以下になると「関節の機能が失われた」と見なされ、後遺障害8級となります。
しかし医学技術の進歩によって、人工関節を入れても健康な関節の半分しか動かないといったケースは、あまりないといわれています。ただ、実際に動かないことを認められて8級を取得したケースもあります。まずは弁護士に相談してみることが大事です。
参考までに、人工関節・人工骨頭の後遺障害等級表を掲載しておきます。
上肢(肩、ひじ、手首)
8級6号 | 片腕の肩・ひじ・手首のうち、どれか1関節の機能が失われた |
---|---|
10級10号 | 片腕の肩・ひじ・手首のうち、どれか1関節の機能に著しい障害がある |
下肢(股関節・ひざ・足首)
8級7号 | 片足の股関節・ひざ・足首のうち、どれか1関節の機能が失われた |
---|---|
10級11号 | 片足の股関節・ひざ・足首のうち、どれか1関節が機能に著しい障害がある |
人工関節・人工骨頭でしっかりとした後遺障害等級を取るためのポイントは?
交通事故によってケガをしたときには、とにかくすぐに医師の診察を受けることが大切です。事故から時間が経ってしまうと、交通事故と後遺障害の因果関係を証明するのが難しくなります。
人工関節・人工骨頭での後遺障害申請では、医師に書いてもらう後遺障害診断書の内容も重要になります。人工関節を入れた後の関節可動域がきちんと測定されているか、レントゲンやCTなどの画像資料が十分にそろっているかなどをチェックする必要があります。
また10級という高い等級を確実に取るには、診断書をしっかりとチェックすることが必須です。さらに8級はかなり取るのが難しいといわれており、きちんとした申請をしないと、低い賠償金しか受け取れなくなります。
したがって、交通事故に精通した弁護士を選ぶこともポイントのひとつです。診断書の内容チェックができて、画像資料を見て症状を読み取れる、交通事故専門の弁護士に相談しましょう。
人工関節・人工骨頭の後遺障害慰謝料の相場は?
後遺障害が残ってしまったことで受けた、精神的なショックに対して支払われるのが後遺障害慰謝料です。後遺障害の等級が高いほど精神的なショックも大きいとみなされ、慰謝料も高額になります。
じつは後遺障害慰謝料には、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」と呼ばれる3つの基準があります。自賠責保険は必要最低限の補償をするためのものなので、3つの中では一番低い金額になっています。一方、弁護士基準は過去の交通事故裁判の判例によるもので、自賠責保険基準の2~3倍もの金額になります。

人工関節・人工骨頭で認定される後遺障害8級、10級について、後遺障害慰謝料の相場は下の表のとおりです。その金額の差に驚かれるのではないでしょうか。保険会社との示談の手続きを弁護士に依頼すれば、自動的に弁護士基準が適用されます。
後遺障害慰謝料
自賠責保険基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
後遺障害8級 | 331万円 | 約830万円 |
後遺障害10級 | 190万円 | 約550万円 |
人工関節・人工骨頭の入通院慰謝料の相場は?
後遺障害慰謝料のほかに「入通院慰謝料」があります。入通院慰謝料とは、交通事故で入院や通院することの精神的負担に対して支払われるものです。入通院慰謝料の金額は、入院や通院をした期間によって変わってきます。
たとえば半年(180日)入通院した場合の慰謝料を見てみましょう。
自賠責保険基準の場合、入通院慰謝料は1日あたり4,200円(2020年4月1日以降の事故では4,300円)です。ただし治療費や休業補償と合わせて最大120万円までという上限があります。180日分の治療費はそれなりに高額になりますので、入通院慰謝料についてはほとんど支払われないケースも多くなります。保険会社に任せた場合も、だいたいこれに近い金額が提示されると考えてください。
一方、弁護士が入った場合は入通院慰謝料も弁護士基準で計算されます。3ヶ月(90日)入院の後、3ヶ月(90日)通院した場合の入通院慰謝料の相場は188万円です。もちろん治療費や休業補償とは別に支払われます。
入通院慰謝料の詳しい計算方法が知りたい方は、下の「入通院慰謝料とは?計算方法や相場をQ&Aで解説」をご参照ください。
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入通院慰謝料とは?計算方法や相場をQ&Aで解説
人工関節・人工骨頭を入れたことで、慰謝料のほかにもらえるお金は?
人工関節・人工骨頭は、生まれ持った骨よりも摩耗や緩みが発生しやすく、耐久年数が短いといいました。ですから将来的には、新しい人工関節・人工骨頭に入れ替える手術が必要になることもあります。
交通事故の加害者側に損害賠償を請求する場合、人工関節・人工骨頭のメンテナンスにかかる将来治療費も含めて考えなければいけません。被害者がまだ年若い場合は、メンテナンス手術も1回では済まないことも多く、膨大な手術費や入院費がかかってしまいます。
将来治療費の申請には、再手術が必要なことを証明する医師の意見書などが必要です。そういった資料をそろえて、計画性を持って将来治療費を獲得するためには、やはり交通事故の経験豊富な弁護士の手助けが必要となります。
また、交通事故によって仕事を休んだ場合は「休業補償」が受けられます。さらに、人工関節・人工骨頭になったことで、交通事故の前と同じ仕事ができなくなったケースでは、減少した収入額を「逸失利益」として請求できます。
人工関節・人工骨頭の「将来治療費」「休業補償」「逸失利益」「慰謝料」を含めた賠償金の総額が3000万円を超えた例もあります。
人工関節・人工骨頭に対する、正当な慰謝料・保険金を受け取るには?
人工関節・人工骨頭の治療の可能性がある場合は、必要なお金を確実に受け取るためにも、なるべく早めに弁護士に相談することをお勧めします。
ただし、弁護士にもさまざまな専門分野があります。交通事故や後遺障害を専門としていて、人工関節や人工骨頭の示談交渉の経験が豊富な弁護士を選ぶことがベストです。
アズール法律事務所には人工関節や人工骨頭を入れた方からのご依頼いただいた実績も数多くあります。交通事故の被害者の方からの相談は無料で受け付けておりますので、もしお悩みならばぜひ一度ご相談ください。